ラージセンサーによる映像撮影の今
記録したものは、何らかの形で再生する必要がある。
業務用はともかく、民生用においての記録・再生装置は規格による制約を受ける。
ディスプレイのネイティブ解像度、ケーブルの伝送速度、記録ファイルフォーマット、などだ。
その制約内でも、幾つかのグループがある。
撮像素子をネイティブ解像度(ビニングを含む)で使用するか、オーバーサンプリングを前提として使用するか、だ。
ネイティブ系の機器としては、最近のスマートフォンやドローン、少し前のCanonの一眼レフなどが該当する。
1920x1080での撮影であれば、撮像素子上の1920x1080の領域を使用する。あるいは3840x2160をビニングして使用する。
メリットは、処理するデータ量の少なさだ。拡大も縮小も不要、そのままディベイヤー処理だけをすればよい。
読み出す行が少なくて済むため、ローリングシャッター歪みも少なくて済む
デメリットは、解像度に応じて画角が変動することと、絶対的な情報量の不足だ。
オーバーサンプリングを前提とする機器は、最近の一眼レフやミラーレス全般だ。
4K撮影に対して過剰なほどの画素数を持っている機器は、まずこのパターンである。
もっとも、画素数が多すぎるとビニングも併用する。
データ転送や画像処理が追い付かない、というのが理由だろう。
とても大雑把な情報ではあるが、フルサイズ一眼レフで2400万画素クラスのカメラは、少し前であれば24fpsなら全画素読み出ししてオーバーサンプリングしていた。
SONYのカメラで、そのような注意書きが記載されていたのを記憶している。
今は30fpsでもどうにか可能なようだ。NikonのZ6などがそれを示している。
使われていると思われる撮像素子の仕様を確認すると、ビデオ向けの12bitADC使用時で40fpsくらいまでは可能とされている。
そのため、少し前の24fpsの制限というのは、恐らく画像処理側がネックになっていたと思われる。
しかし、業務用の機器は記録ファイルフォーマットなどの制約がない。
データ転送レートなどの問題が無いわけではないが、自社で規格を作ってしまうので、制約は限りなく少ない。
また、民生用機器ではデータ転送や画像処理が追い付かないという壁が存在するが、業務用機器では撮像素子の駆動限界までキッチリと使い切り、必要なリソースは消費電力と引き換えにしっかりと用意する。
余談だが、それに近いことを民生用でやっているのが、パナソニックだろうか。
民生用の枠内で、他の機種よりも電気とシリコンを投入している感はある。
さて、業務用機器の最右翼と言えばRED社ではないだろうか。
調べてみて驚いたのは、会社を作ったのがサングラスで知られるオークリーの創業者だということ。
共に光学系なので、何となく納得する組み合わせではある。
なお、調べてみた限りではあるが、業務用機器ではネイティブ解像度での撮影しか行えないものが殆どだ。
ビニングもしない。
オーバーサンプリングもしない。
ビニングは品質を低下させるし、オーバーサンプリングするくらいならネイティブ解像度で記録しよう、ということなのだろう。
よって、解像度を下げると画角が挟角化する。
これは初代のRED ONEから変わっていない。
そんなREDのカメラは、今どのあたりの水準にあるのか。
8K対応のMonstroは、8192x4320で60fpsが可能である。
2400万画素を30fpsで使っている民生用機からすれば、約3倍の情報量をブン回していることになる。
たった3倍か、と思わなくもないが。
余談だが、このセンサーは対角線が46.31㎜もあり、35㎜フィルムの写真用レンズを使用した場合に少しケラレる。
43.3㎜から少しだけはみ出しているからだ。
とはいえ、ほとんどのレンズでギリギリ使えるのではないかと思うが。
そして、なぜこんな中途半端に大きいサイズの素子を作ったのかと考えてみたが、これは下位モデルのDragon搭載の素子をそのまま8K解像度になるまで拡大したものだ。
つまり、せめて下位モデルと同等の感度やDレンジを確保するために、結果的にこの大きさの素子になったということだ。
そんなわけで、同じ8Kでももう少しレンズに困らないモデルを作ろうと思ったのだろう。
中堅モデルのHeliumは、同じ8Kでありながら、もう一つ下のGeminiと同等のサイズの撮像素子を持つ。
とはいえ、本体に「S35」の文字がありながら、対角線が33.8㎜もある。
こちらはS35向けのレンズだったら確実にアウトだろう。
そのため、レンズ資産を優先させるのであれば、6Kくらいの解像度で撮影することになるのだろうか。
それでも十分高解像度であるが。
この廉価版8Kとも言えるHeliumに対して、もう少し感度的な余裕を持たせたい、解像度的にも下位モデルと同じでいい、と考えてバランスを取ったのが、Geminiなのだろう。
厳密にいえばHeliumと同サイズではないが、解像度を5Kまで落としたことで感度的にはかなり余裕があるはずだ。
これ、画素サイズを計算すると、フルサイズ一眼レフ向けの2400万画素とほぼ一緒である。
各社が発売している2400万画素モデルの高感度特性が素晴らしいことを考えれば、このGeminiも夜撮影では相当に活躍すると思われる。
そして、S35のサイズをほぼ守った状態で、できるだけ解像度を上げたモデルが、エントリーモデルのDragonだ。
レンズのケラレなども気にする必要が無く、フル解像度でも5Kであるので、普通に使うのであればもっとも使いやすいと思われる。
そんなわけで、少しだけRED社のカメラについて理解が深まったところで終わりとしたい。
それでは皆さん、ごきげんよう。